大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)650号 判決

上告人(原告) 加藤光市

被上告人(被告) 群馬県選挙管理委員会

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

上告代理人弁護士発地清の上告理由は別紙記載のとおりである。

上告理由第一点について。

原判決の確定するところによれば、訴外島田倭は、昭和二六年四月三〇日施行の群馬県議会議員選挙に当選したが、それより以前の同二五年一〇月一六日に公職選挙法違反に基く同人に対する略式命令が確定し、同法二五二条により同日から五年間同人の被選挙権が停止されていることが判明したので、当選当時から同人は地方自治法一二七条により職を失つていたものとして、同二七年九月二日次点者山田義博を繰り上げて当選人と定めたのである。

論旨は右島田は地方自治法一二七条により失職しても、議員たる地位、身分を失わないというのであるが、同条の適用において議員の地位と職とを区別すべき理由は、法文上も理論上も全然存在しないのであつて、論旨は上告代理人の独自の見解に過ぎない。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、訴外島田の被選挙権の喪失は、恩赦法一一条にいわゆる既成の効果ではないと主張するのであるが、同人は、昭和二七年四月二八日施行の大赦前、同二五年一〇月一六日公職選挙法違反に基く同人に対する略式命令が確定し、公職選挙法二五二条により同日から五年間被選挙権を有しなかつたのであつて、その日から前記大赦の日まで被選挙権を有しなかつたことは、恩赦法一一条にいわゆる「有罪の言渡に基く既成の効果」といわざるを得ない。右島田が昭和二七年八月三〇日まで事実上議員の職を行つていたからと言つて、このような違法事実によつて同人の右被選挙権の喪失が既成の効果でないとすることはできない。

以上説明のとおり本件上告は理由がないから、これを棄却することとし、民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人弁護士発地清の上告理由

第一、原審判決は「島田の失職による議員の欠員は公職選挙法第百十二条第一項所定の選挙の期日から三箇月以内に生じた場合に該当すること明らかである」と説示して居るが、これは明らかに議員の地位と職を混同し、公職選挙法第百十二条第一項と地方自治法第百二十七条を誤解、誤用するものといはなければならぬ。

県会議員を含み、凡そ、公務員について、その地位(身分)とその職(仕事、活動、)を截然と区別するのは法律の原則であつて、刑法第百九十三条が「公務員其の職権を濫用し云々」と規定し、又同法第百九十七条が「公務員又は仲裁人其の職務に関し云々」と規定するのはいづれもその例に外ならぬ。

而して地方自治法第八節が議員の辞職及び資格の決定と題し、その節下に第百二十七条を設け、議員失職に関する規定をして居るのは議員の失職を即議員の資格の喪失と解する理由とはならない。

何故ならば右の第百二十七条は「……その被選挙権の有無は……議会がこれを決定する……」と規定し、その決定さるべき資格は被選挙権であることを明らかにして居るからである。

我が国の法則に於て議員たる地位、身分を附与するものは国民の投票即民意である。此の関係を規律する法は公職選挙法に外ならぬ。而して民意によつて議員たる地位、身分を取得した者が議会を構成して活動する関係は議員の職である、此の関係を規律する法は地方自治法である。

してみると、仮りに原審判決のように島田が地方自治法第百二十七条によつて失職したとしても、それによつて直ちに、島田の議員たる地位、身分が喪失し、従つて議員の欠員を生じたとするのは根拠のない速断である。地方自治法第百二十七条は単に「……その職を失う……」と規定し議員たる地位を有する者に就いて、その活動を排除するに過ぎぬ。法律が議員たる地位、身分を当然に喪失せしめないのは、それが民意によつて附与されたものであるからである。その議員たるの地位、身分を喪失せしむるためには、必ずや、その為めの手段を構じなければならぬ、原審判決が島田の議員たるの地位は地方自治法第百二十七条により当然喪失するものと解し、従つて公職選挙法第百十二条第一項を適用し本件繰上当選を認めんとするのは、明らかに島田に議員たる地位を附与した民意を無視するの甚しい議論であつて、国民主権を基幹とする我憲法のもとに於ては、到底許容され得ない。

第二、原審判決は「公職選挙法第二百五十二条による被選挙権喪失も恩赦法第十一条にいわゆる既成の効果に外ならないのであつて、之に対し同条の適用を除外すべき何等の根拠をも見出すことが出来ないから右効果は大赦によつて何等影響をも受けないものと解すべく云々」と説示して居るが、これは明かに恩赦法第三条同法第十一条の解釈を誤り右第十一条を不当に適用するものといはなければならぬ。

恩赦法第三条は大赦の効力を規定し「有罪の言渡を受けた者については、その言渡は効力を失う」となして居るので、大赦の効力が、その言渡の時に遡及することは疑を容れない。然し有罪の判決に基く総ての効果が、その言渡の時まで遡及して其の効力を消滅するかというと、それは同法第十一条によつて「既成の効果は」その効力を「変更されることはない」のである。そこで既成の効果の解釈が問題となるが、恩赦法第三条との関係よりして「判決の言渡に基く抽象的又は概念的効果をいうのではなくして具体的又に現実的結果を発生した効果」と解するのが妥当な解釈である。即有罪の言渡に基く総ての効果は言渡の時に遡及して、其の効力を失うが、具体的に結果を発生した分については、法律干係が紛糾するから其の効力を持続させると解すべきである。

此の観点からすると原審判決が被選挙権の喪失をもつて既成の効果に外ならぬとしたのは誤りである。のみならず、島田は昭和二十七年八月三十日に至るまで、県会議員の職を行つて居たのであるから、島田について失職したという具体的、現実的結果は未だ全く発生して居ない。ことを抽象的に、又は概念的に論ずるならば島田は昭和二十六年五月二日において失職して居たということが、或は、出来るかも知れぬ、しかし、現実には島田は失職することはなくして大赦を受けたのである、従つて島田を失職したものとして本件繰上当選を肯定した原判決は誤れるの甚だしいものであつて破毀を免れない。

以上

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